【読書】晴天の迷いクジラ
デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた―。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
由人(24)、野乃花(48)、正子(16)、それぞれが抱える問題は本当に重たい。
そして、物語の最後でも、それらの問題が根本的に解決するわけではない。これからも、向き合っていかなければならない。しかし、彼らは日常に戻って戦うだろう。
ままならない日常。でも、「生きていこう」。そう思えた。
旅先でお世話になる、雅晴(30くらい?)とおばあちゃんがいい味を出している。
特に、近所の小さな温泉で、雅晴が由人に話をするシーンが好きだ。
「なんにもできないけど、こっちにいるなら好きなだけ泊まってくれよ」
「死んでしまったら何も話せないからなぁ」
実は雅晴も、重たい過去の後悔と向き合いながら生きていた。
雅晴の言葉が、心に沁みてくる。
「死ぬなよ」
自殺について
小4くらいの頃の話。ある日、1つ上の友達とスマブラをしていた。
自分「○○君のお父さんって、何してるの?」
友達「俺の親父は、樹海で自殺した」
友達は平然と答えた。
まるで、血液型を答えるように。
初めて、自殺というものを現実のものと意識した。
社会人1年目。地方勤務。行きつけになろうと通っていた店。常連の面白いおっちゃんがいた。一緒になれば、カウンターで野球談義に花を咲かせる。友達になれそうな気がしていた。
ある日、「最近見ないな〜」と思って、店長に聞いた。
「あいつは、自分で逝っちまった」
と、店長は答えた。
当たり前に存在していた人が消える衝撃。
初めて、自殺を身近に感じた。
記憶の中のおっちゃんは、笑った表情だ。何に悩んでいたのか、全く分からない。
死んでしまったら、何も話せないから。